コロナウィルス感染症療養方針の見直し

皆さま、こんばんは。

政府のコロナウィルス感染症の療養方針の見直しにあたり、中等症の患者さんは自宅にて療養との方針が出されました。したがって今日は中等症を中心に考察してみたいとおもいます。

厚生労働省の”新型コロナウィルス感染症診療の手引き・第5.2版” では重症度分類が示されており、コロナウィルス感染症は、軽症、中等Ⅰ、中等症Ⅱ、重症の4つに分類されます。うち中等症は呼吸困難、肺炎所見のあるものは中等症Ⅰ、酸素投与が必要なものは中等症Ⅱに分類されます。正直この中等症(特にⅡ)は、かなりシビアな状況といえます。というのも血液中の酸素飽和度が93%以下を中等症Ⅱとされています。一般的な判断として酸素飽和度が90%を切ると呼吸不全という判断になります。この感染症は急速に悪化することでも知られることを考慮すると、93%はギリギリのラインといえます。当然、呼吸不全が生じれは状況によっては人工呼吸器の使用も視野に入ってきます。このギリギリのところまで自宅で療養していなさい、というのが今回の見直しになるわけです。

 

厚生労働省 新型コロナウィルス感染症診療の手引き・第5.2版 P.34より転載

一方、治療に目を向けると中等症Ⅰに対しては、発熱や呼吸器症状に対する対処療法(要は解熱剤などの使用ですね)、抗ウィルス薬(レムデシビル・商品名:ベクルリー)の投与となり、中等症Ⅱになると酸素投与、ステロイド剤の投与、状況により抗凝固剤の投与が推奨されています。ここで問題が一つあります。上記の抗ウィルス薬(レムデシベル)は世界的に不足しているため、国が管理し指定された医療機関(入院病床をもつ指定医療機関)に必要に応じて供給されます。従って実質的には入院しないと使用できない薬になっています。

 

厚生労働省 新型コロナウィルス感染症診療の手引き・第5.2版 P.35より転載

また少し前に認可された抗体カクテル療法(カシリビマブ+イムデビマブ・商品名ロナプリーブ)ですが、この薬の対象患者さんは、軽症~中等症Ⅰの患者さんのなかで重症化のリスクのある方(悪性腫瘍、慢性肺疾患、高血圧、糖尿病、慢性腎臓病など)に投与することになっています。しかし、この薬も世界的に不足しているため、国が管理し指定された医療機関(入院病床をもつ指定医療機関)に必要に応じて供給されます。従って実質的には入院しないと使用できない薬になっています。

とどのつまり今回の療養方針の変更により、本当に必要な際に使用するよう指定されている薬剤は、現場(自宅)では使えない(供給されない)という事になります。従って、一般的な診療所レベルで自宅療養中の患者さんを診る場合できる事は、基本的な対処療法(解熱剤投与など)、点滴による補液、酸素投与、ステロイド剤の投与しかないことになります。そして一番恐れる事は、なにも治療ができないまま弱っていく患者さんをただ見ているしかない。。。患者さんにとっても我々にとっても拷問としか言いようがないですし、これだけは避けたい事態です。

当院でも罹患された場合にハイリスクとなる患者さんは大勢います。今回の状況を踏まえ、万が一かかりつけの患者さんが罹患され、中等症までの状態であった場合に対応できるよう準備をしているものの、正直不安感は拭えません。本当に、一日でも早く治療薬を現場に供給してほしいと思います。手ぶらで戦えるほどやさしい相手ではないと思うのです。

結論として、最善は ”コロナウィルスに罹らないようにする” ことしかなく、そのためマスクや手洗いなどの基本的な事は、仮にワクチンを接種していたとしても必須であると思います。皆さまにおかれましては、いままで通り慎重な生活をお願いしたいと思います。